スーパー銭湯の紳士ドライヤー

平成の終わりにスーパー銭湯に行ってみた。

たいした仕事はしていないが、さっぱりして新しい時代を迎えたいという殊勝な気持ちがあったのだ、私にも。

そこで私は昭和はおろか平成でも1回も見たことのないことを目にすることになる。

旅館、ホテル、温泉、プール、友人の家の風呂、池、沼、水たまりとなど数限りなく水に浸かって私でもこれは見たことがなかった。スーパー銭湯に行き、いつものように薬湯、水素風呂、露天風呂、電気風呂、サウナなど自分の好きな順番にはいって、気持ちよくなった。

いつもどおりの風呂に浸かれたので、

「余は満足じゃ〜」てな具合に安心をして、着替えに上がった。

パンツを履き眼鏡をかけ、体重計にのり、

「また増えてる!やば」と言いつつ、

次に鏡台に移動し、ドライヤーをかけ始めた。

隣には60から65歳くらいのシルバーグレーの紳士がかっこよくドライヤーをかけている。

「あの年になっても髪がしっかり残っているのはいいなあ」

とか思いながら、私は自分の薄くなった頭髪を、一本たりとも抜けないように全神経を集中しつつ、ドライヤーをかけていた。

やがて、隣の紳士がゆっくりと立ち上がった。

「もう終わりか」と私が思った瞬間、彼は椅子に片足をあげ、

股間にドライヤーを向け、ゆっくりと温風をあて始めた!!

実に愛おしそうに股間のヘアーを撫でつけながら、風をあてている!

未だかつて見たことのない光景が自分の隣で起こっている。

私が家でもやってことはないことを彼はこの公共の銭湯で堂々とやっている!

私は大きな動揺を隠しつつ、“股間ドライヤーは私が見たことがないだけで、本当はよくあることなんだろうか”と何度も自問した。

紳士の気持ちよさそな顔、ぼんやり見える股間のヘアーの豊かさ。

う〜ん、今度私もやってみようか??

ドライヤーが終わったので、ロッカーで着替えを始めた私の近くに、件の紳士がやってきた。タマタマ、いやたまたまなのだが、紳士と私のロッカーは隣同士だったのだ。この股間ドライヤーの紳士はいかなる人物なのか、私の興味は最高潮に達した。銭湯のロッカーを誰でも使ったことがあると思うが、隣どうしのロッカーは開けづらくなる。今回は私が紳士の邪魔をすることになったので、

「すいませんねえ」と声をかけると、優しい声で、

「いえ、いいんですよ」と。

やはり股間ドライヤーは紳士だった。皆さんは紳士といってもわからないかもしれない。イメージでいうと、二谷英明8割に、渥美清を2割といったあたりだろう。

正直なところ、股間ドライヤーはいつ頃からやっていますか、とかご自宅でもやっておられますよね。とか言いたかったが、小心者の私には到底そのようなことはできず・・逃げるようにその場を立ち去った。

紳士がどのような私服だったのか、あとで見たいと思っていたが、私服になった紳士はその辺の親父はもう見分けがつかなくなっていた。

ぜひ、股の機械には、いや、又の機会には股間ドライヤーについて、紳士と語り合いたい。そのためにも私もやってみようか、股間ドライヤー。