帰れない二人 in スシロー

私はスシローを安い居酒屋だと思っているので、ビールなり日本酒で軽く一杯やることがある。

つまみは唐揚げ、天ぷらが定番、また松前漬寿司もいいつまみになる。適当なところで、寿司をちょっと食べるといい感じで帰れる。

まだ平成の頃に、久しぶりにスシローに行ってみた。

はす向かいにカップルと思しき二人が、楽しげに寿司を食べていた。素晴らしい光景である。

ただこのカップルはどうみても、40前後であろう。男は年下に見受けられた。しかし素晴らしい光景である。

そちらばかりを見ていたわけではないが(そこまで変態ではない)二人の前にはどんどん、皿が重なっていく。素晴らしい光景である。

この二人は、他のボックスと違っていた。
大きなボックス席で隣り合って座っていたのだ。
もしかしたら、待ち合わせの相手が来るのかもとも思ってみた。
私が帰るまで誰もこなかった。私の勝手な偏見だが、お隣座りができるのは、大学生までだろう。

また私の席からは二人が、テーブルの下で、かたく手を握り合っていたのが見えた。素晴らしい光景である。
通路側にいた彼は時々、手を(惜しみそうに)離し、彼女の後ろから手を回し、寿司をとっていた。

彼女にとってもらえよ、たぶんあなたもツッコミを入れるだろう、私も強くそう思った。

寿司を取るたびに彼女に強く接近し触れ合う。
わざとうくっついているんじゃないんだよ、ということをさりげなく、周りに示しつつ、やっていたように思う。

私も小学校の授業でフォークダンスをやったとき、好きな女の子の手を握るとき、しっかり握りたかったが、わざと親指と人差し指で触れていた。そんな男の純情を彼の中に垣間見た。

井上陽水に「帰れない二人」という名曲がある。あの年増の純情カップルをみて、私の中でこの曲が鳴り出した。
きっとあのふたりは、スシローを出たら、単なる二人になってしまう。
猥雑でうるさいスシローの喧騒の中だからこそ、二人の世界があった。二人に幸あれ。